第一部 第一章第一章まだ、朝も早い時間。小鳥がかわいらしい声でさえずっている。 城の、到底庭になど見えないほどの広さの中庭で、ひとつの影が動いた。 広い部屋と壁と化したガラスで区切られただけのそこは、まだ顔を出した ばかりの太陽の日の光が、一枚の絵のように美しく照らし出している。 美しい黒髪をたたえた人物が、庭に出されたままの木製の椅子に腰掛け、 肩にとまった小鳥に優しく話し掛けている様は、まるで物語のなかに紛れ 込んだような、そんな錯覚に陥ってしまう。 若く、好奇心に溢れたような表情で小鳥に語りかけたかと思えば、まるで 年取った人物が幼い子供を見つめるような瞳で、優しくその羽に指を滑らす。 なんとも、不思議な雰囲気を持つ人物だった。 性別さえ、分からない。いや、分からなくても問題が無いような、そんな人物。 天使でありながら、その漆黒の瞳には何を思っているのか悟らせない。 鋭い牙を巧妙に隠した、悪魔のようでもあった。 ただ、美しい事だけは確かだった。 まるで、人形と並べても、人形の方が見劣りするのではないかというくらい。 天使の皮を纏った悪魔なのか、はたまた悪魔の魅力を振り撒く天使なのか・・・。 今はまだ、それを知り得ることはできないのであろう。 けれど、繰り返しつづけていた日常が崩れ去る今日・・・。 そんな事など知る由も無いこの人物は、これから先、きっとその答えを教えて くれるのだろう。 今はただ、そのときが来るのを待ちつづけるのみ・・・。 |